というわけで(?)女王プロメシューム:小笠原祥子、メーテルの父:水野蓉子に配役すると、

祥子は怒りのあまり震えを抑えられなくって。
だって、なんということかしら。
――ロザリオは受け取れません?
(この私にたてつく者がいたとは。この私に!)
この私をだれだと思っているのかしら。
私は女王、小笠原祥子
姉妹帝国の女王・紅薔薇のつぼみにして、全宇宙の支配者のつぼみ!
この私にたてつくことのできるものなど、いてはならないというのに!
「さすがは祐巳ちゃんね」
とつぜんの声に、祥子はそのペンダントを自分がさっきからずっと、握り締めていたことに、いまやっと気がついて。
でも、今になって気がついたことを悟られたくなかったので、わざと視線は真正面を向けたまま。
声を低く抑えて「お姉さま」とだけ応答すると、
そのお姉さまは人の気も知らずにカラカラと笑って、
「やはりあの一年生はおまえの思い通りにはならなかったようね。あなたの負けよ、祥子」
「ええ! 何をたわけたことをおっしゃいますの。たとえあのような一年生のひとりや二人思い通りにならずとも、この山百合会はびくとも揺るぎはしませんわ!」
「そうかしら。私の見るところ、あの一年生の福沢祐巳ちゃんという子は、むしろ真の愛と勇気をもった未来のスールだわ。必ずやあなたのハートを、あの誉れ高い百面相でもって、撃ち貫いてゲットすることでしょうよ。その日が楽しみね」
蓉子さまのそのいかにもからかうような調子に、
――なぜか祥子はわけもなくかっと腹が立ってしまって。
「お姉さまの意地悪っ!!」
思わずペンダントを投げ捨ててしまった。
(――ええ!)
私は小笠原祥子
姉妹帝国の女王・紅薔薇のつぼみにして、全宇宙の支配者のつぼみ!
この私にたてつくことのできるものなど、この世のどこにもおりはせぬ!
そうよ、そうなのよ!
祥子は少し気が落ち着いてきた。
元気が沸いてきた。
(このまま黙っているわけには行かない)
この私の恐ろしさを思い知るがよい! 
復讐するは我にあり。エロイムエッサイム。
「誰かおらぬか!」
祥子は声高らかに呼ばわった。
――するとそこへ、ビスケット扉の向こうから、
「あのう……」
と控えめな声が聞こえてきて。
(!)
「あの、祥子さま。何かお声が聞こえたのですけど」
「まあ、何を聞いたというの?」
変えない、変えない、変えない。
断じて、祥子はこの子の前では、顔色は変えない。
「何か御用かしら、たしか――福沢祐巳さん」
昨日から何度も心の中でつぶやいてきた名前を。
祥子はやっと、ひっそりと声に出したのだった。