わが青春の銀河鉄道

そういえば親離れを経験し、そして別離のときを迎えるこの二人の関係は、ちょうど『マリみて』で上級生が卒業し、スール関係が解消されるのにも似ているのではないでしょうか。それにマリみての登場人物たちも〈切れる〉ことはないですね。
え、なんですって? そんなこと言うけど、当代の黄薔薇さまのとこの〈黄薔薇のつぼみ〉はしょっちゅう切れてるじゃないかですって? でもあれは由乃さんの令ちゃんにたいする〈甘え〉の表出ですからね。つまり由乃さんの行動は、思い通りにならないときに暴力的な言動や行動をして、他人を傷つけたり怒らせたりするといった類の行動とは、本質的に異なるといってよいでしょう。〈拳で分からせる〉というのとスール関係の指す方向とは、明らかに正反対ですからね。
テレビや映画では、鉄郎に「汚いぞ!」といわれたメーテルは、とても悲しそうな顔になります。でも原作の最終回『終着駅/わが青春の銀河鉄道』で、表紙の見開きに描かれたメーテルの顔は、――少なくとも「悲しい」というのとは少し異なっているようにみえる。原作者松本零士は、もともと傾向としてそんなに激しい変化のある顔を描く人ではありませんが、この最終回見開きの、口元を閉ざし遠くを見つめるメーテルの顔は、どことなく不思議な陰翳を帯びて、むしろ穏やかな雰囲気をたたえているようにさえ思われます。

鉄郎が……私を助けるために、ネジになってもいいといった。
私は鉄郎の夢を砕いた女。
鉄郎の未来も希望も消してしまった女。
私を魔女と呼ぶ人もいる。
そう、私は魔女……

淡々と語られる台詞と不思議な表情とがあいまって、この最終回の見開き表紙が全編の掉尾を飾っています。