不愉快なパフォーマンス

司会者のこの取り違え、そして男性論者たちの怠惰は、このイベントの本質をあからさまに露呈している。該当男性論者たちが壇上に上がっていた時間帯、特に第一部は、私にとって、ただひたすら不愉快であった。「くだらない喋々喃々」について具体的に書き記しておこう。喋々喃々の当事者の中心は、出演者の某漫画家である。彼は第一部開始前から楽屋で、水野レイさんを含む出演者たちに、「オナホール」がどうのこうのと延々と力説していたらしい。そしてその話をイベント開始後の壇上でもひたすら繰り返していたのである。
該漫画家が自ら語ったところによれば、レイさんをつかまえて「オナホール」なるものの解説を微に入り細に入って説明していたという。その神経自体、信じがたいものがあるが、それはまだよしとしよう。壇上での彼のテンションはますます上がる。――穴に突っ込んで気持ちがいいなら男も女も関係ない。男に突っ込んでも気持ちがいいだろう。いや、突っ込んで気持ちがいいなら、突っ込まれるのはどうか。もっと気持ちがいいのではないか。――こんな調子である。
丸坊主に筋肉質と思しい該漫画家の容姿を見て、私はハードゲイという言葉を瞬間的に想起し、われながらその偏見――該漫画家に対してもハードゲイについても――を反省した。しかしこの反省は、少なくとも該漫画家に関する限り的外れだった。該漫画家は、そのような自らの外見について十分に自覚的であり、むしろ大いに誇っているようだった。壇から降りて身体を見せ付けるように揺らしながら「俺に脱げというのかよ」という彼は、実際そのような仕草をしながら客席に立ち入り、自らの胸を押し上げ揉み上げつつ、客席の女性客にふざけかかってその胸をつかませるというパフォーマンスを演じ、壇上からは「チップを腰に挟んでもらえよ」などという声がかかる。
運悪く、彼のふざけかかった女性客の席は、私の右前方そば近くだった。この不愉快なパフォーマンスを、私は間近に見せ付けられたのである。だが不愉快だったのは私だけだったようだ。観客たちは大いに熱狂し、手をたたいて爆笑していた。該漫画家のパフォーマンスは、彼の目論見どおりの効果を奏した。少なくとも彼は、金を払って入場している客の期待に十分にこたえていたといってよい。この点において、彼は確かにプロの芸人であり、商売人であった。
だが彼の商売に付き合う理由は私にはない。私はレイさんに会い、加えてメガネイベントを楽しむために来たのであって、彼のパフォーマンスを鑑賞しにやってきたわけではない。そんなことは彼自身のファンの集いにおいてやるがよい。
私は単純に不愉快だった。彼のパフォーマンスに、壇上と観客との双方が大いに盛り上がり、その雰囲気はイベントの間中、伝染して続いていた。それが私をいよいよ不愉快にさせた。
ここで私は彼らに要求したい。「突っ込んで気持ちがいいなら、突っ込まれるのはどうか」などと疑義だけで終始する必要はない。セックスなど実践して何ぼのものである。ぜひ実践し、全員で鑑賞していただきたい。
司会者によれば、機会があればこのメガネイベントを年末までにもう一度開催したいということであった。ちなみに該司会者はしきりに――自分はBLややおいをよく読む人間であり、偏見はない――とアピールしていた。おおいにけっこう、次のイベントとやらまでに時間は十分ある。
偏見のない人間が最低二人はそろっているのだ。どちらが受けでも攻めでも良いから、さっさと実践してそれをビデオにでも録画し、次回のイベント開催の折には上映するとよい。そして「いやあ、やはり予想通り突っ込まれるのは気持ちよかった」と所感を述べていただこう。さすれば大いに好評を博し、会場は再び爆笑の渦に包まれるであろう――ならば、別に私はあれこれ言うつもりはない。
そう、だから私は不愉快だったのだ。壇上檀下、彼らは笑っていた。大笑いしていた。大笑いしていたのは、該漫画家も含めて、絶対に彼らはそんなことを実践しないからである。該漫画家のパフォーマンスは、まさにただのパフォーマンスに過ぎない。彼自身のセクシャリティの告白などとは、明らかに当の本人も含めて誰ひとり思っていない。だから〈彼ら〉は笑っていられたのだ。彼らは、自らが〈突っ込まれる〉立場になりうるなどとは夢にも思っていない。その彼らは、第二部の女性論客が語った言葉をいったいどう聞いていたのだろうか。