というわけで新作『名を。』

江利子さまと令さまのやりとりで始まる。卒業前夜、迫り来る別れをいとおしむ二人。――中ごろまで真面目一直線に、引く、引く、引く、引く。引くだけ引いて、三薔薇さま、まっしぐらにご乱心。この〈破〉へ一転の迫力よ。

こういった序破急のバランスと、そして独特の措辞(語尾の「―っす」とかね)。それらが、原作の〈どこ〉〈何〉を抽出するかについての、確立したアイディアに支えられていて、原作と背反するどころか、かえって〈らしさ〉を醸し出す。原作を知らなくても妙におかしいのですけど(これも重要ですね)、知ってるともう仰天伏地して爆笑するしかない。

実は私は『黄薔薇革命』までしか読んでいない時点で第一作『薔薇道』を読んで「何これ!」と仰け反って大笑いしたのですが、『いとしき歳月』までを読了した時点で再度伺って、その時点ですっかり参ってしまいました。

〈虚実皮膜〉――至芸は、真実寄りでも虚構寄りでもなくて、その両者の〈間〉にこそある――という古言に従うなら、〈原作そのまま〉と〈原作離れ〉との中間にあるこの芸を、至芸と断言して憚るところございませんわ、私。断言を恐れる小心な、この私が!

ということで、本日はファンレターです。すでにご承知の方にとっては「今さら何を言ってるのかしら、このトンマさんったら」という感じでしょうか。