――「第四の薔薇さまですって?」

「そんなものがいるはずは……え?」
 蓉子は目を疑った。
 ――この場、高等部図書館にはいま、確かに、聖と江利子、そして自分しかいないはずなのに、
「……なによ、これ?」
 何度数えても、四人いるのだ。
「どうしたのよ、蓉子」
「だって江利子、何度数えても、私たち――四人いるのよ」
「なに言ってんだか。そんなわけないじゃない」
 聖はカラカラと笑って、――ふと首を傾げた。
「……そういえば」
「どうしたの?」
 蓉子がたずねると、聖は首をひねりながら、
「いや、関係ないかもしれないけど、さっき、ここの入り口で妙な子に出会ったの。首のあたりで髪を切り揃えた」
「切り揃えたって、あなたみたいに?」
 江利子の問いに聖はうなづき返して、
「じっと階段に座って身じろぎもしないので、『どうかしたの、あなた?』って訊いたの」
 ――そしたら、その子は顔を上げて、
「『私は今まではリリアンの〈失われた薔薇〉でしたけど、今からイタリアへ行きます』って言ったの」
「――失われた、薔薇?」
 蓉子はふと、いいようのない寒気に襲われた。江利子が眉をひそめて、
「何よ、それ?」
「さあ? で、とにかく」
 聖は言葉をつづけて、
「それでね、私が『どうしてそんな急に、イタリアへ?』って訊いたら」
「訊いたら?」


(――やめて)
 その先を、言わないで、聖。
「そしたら、彼女ね」
 言わないで。
「こう、言ったのよ」。
 やめて!


 ――『もう、リリアンも終わりだもの』――


(――ああ)
 蓉子は天を仰いだ。
「蓉子?」
「どうしたの?」
 蓉子は目をつぶった。
 目をつぶって、無理強いに言葉を押し出した。
「――座敷わらし!」


 座敷わらし。


 座敷わらしの滞在するとき、その滞在場所は栄耀栄華を極め尽くす。――でもいったん去ると、家運は見る見るうちに傾くと伝えられている。


「さようなら、――あなたが好きでした」


 そして。――リリアン女学園がどうなったか。
 もう誰も知らない。