女子校化した大奥

ところでさすが吉屋というべきですが、この小説における主役女性陣はいずれもみな、いわゆる〈大奥〉っぽい雰囲気がほとんどない。女同士のやり取り、ただし男との関係を主軸にした――を描くというのが〈大奥物〉の常道ですが、本作ではその「男との関係を主軸にした」という条件節がすっぽり抜けているのです。

本作においては、江戸城大奥はほとんど〈女子校〉であり、その〈女子校〉においてお万の方と右衛門佐は、公家の出身の貴人、超絶的美女であると同時に、京都流の優美さと、和漢にわたる高い教養を備えた理想の女性として〈大奥の女中たち〉から讃仰の対象になる。

お万の方や右衛門佐は、将軍の愛人としてよりも、そのような〈お姉さま〉属性において大奥に君臨しているので、この〈お姉さま〉が仕切る〈女子校〉においては将軍家光も綱吉も、本質的には部外者でしかありません。