悲劇から喜劇へ

比較のために吉屋信子*1氷室冴子*2を引き合いに出して考えてみます。吉屋の作品というのは簡単にいえば『いばらの森』劇中の須加星が書いたような小説、つまり〈悲劇〉です。それに対して氷室は『クララ白書』(1980)、続編の『アグネス白書』(1981-82)において、そのような〈悲恋の舞台〉としての女子校を〈喜劇の舞台〉に作り変えました。その舞台である女子校、主人公〈しーの〉がいみじくも吉屋の『花物語』(雑誌連載1916-26)を愛読している徳心学園においては、吉屋はすでにいわば〈対象化〉されているわけです。

*1:吉屋信子 [1896―1973] 14歳で雑誌『少女界』に応募して一等。20歳で『少女画報』に『花物語』を連載。主に女子校を舞台とする本作は、いわゆる〈百合小説〉の祖型として今なお根強いファンが多い。大正9年大阪朝日新聞に連載された『海の極みまで』で女流大衆作家としての地位を確立。最晩年には『徳川の夫人たち』『女人平家』といった歴史小説を執筆

*2:氷室冴子 [1957― ] 1977年、集英社『小説ジュニア』(現『コバルト』)で『さようならアルルカン』が入賞、デビュー。作品を簡単に分けると『恋する女たち』『海が聞こえる』などの青春小説、平安時代・古典を題材にした『ざ・ちぇんじ』『なんて素敵にジャパネスク』、『クララ白書』『アグネス白書』『雑居時代』などのコメディ、近年では『金の海銀の大地』(連載中)のような古代ファンタジー、といったところか。