テレビドラマ『大奥』

その大奥ですが、去年フジテレビ系列で放送された『大奥』。
http://www.fujitv.co.jp/oh-oku/index2.html
正直言うと考証めちゃくちゃだし、演出や台詞回しがくどいので、首をかしげることの方が多かったのですが、いいなと思った数少ないことの一つが、前半で登場した、北村一輝演ずる十三代将軍・徳川家定(1824-1858)の扱い方です。

黒船来航、幕藩体制が根底から揺るぎ始め、内外ともに多事多難な時期に将軍となり、在職六年で世を去ったこの人物については、ほとんど痴呆扱いする考え方から、根暗な引きこもりだけどバカではなかったとする考え方まで、ベースとしてはマイナスイメージにしても、扱い方にそれなりに大きな振幅があります。要するに実態はわからないんですね。――なんでそういうことを記録しないのかはちょっと面白い問題なんですが。

それはおいて、こういった振幅のある家定人物像の中で、例えば松浦玲『徳川慶喜』(中公新書)は〈それなりに聡明だけど、コンプレックスに押しつぶされた人物〉といった推論を述べていて、つまり今述べたうちの後者の人物像に近い見解なのですが、『大奥』での家定将軍というのはまさに松浦の言うようなタイプです http://www.fujitv.co.jp/oh-oku/cast/iesada.html 。

顔に大きなあざを持っているというあたりが、文字通りスティグマであざとい演出なんですが、ただこういった家定将軍像というのは、史実を考えるにしてもいろいろな点で、資するところがあるのではないか、というのがドラマを見たときの感想でした。映像時代劇ではたぶんはじめてでしょう、徳川家定をこういう雰囲気で描いたのは。